化学兵器調査

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化学兵器調査

CHEMICAL WEAPONS INVESTIGATION

平成14年9月、神奈川県寒川町の工事現場において作業中、不審な瓶が発見され、その後作業員6名に発疹やかぶれ等の症状が現れました。さらに平成15年4月には同県平塚市の工事現場においても、不審な瓶が発見され、作業員3名が頭痛などの異常を訴え病院に搬送されました。
その後の分析でこの二つの事故で発見された瓶から毒ガスであるマスタード(イペリット)が検出されました(平塚では土壌中から検出)。マスタードは第一次世界大戦で初めて使用され、戦時中数多くの死傷者を出した怖ろしい毒ガスです。このような毒ガスは、日本も締結している化学兵器禁止条約の第1条で「いかなる場合にも化学兵器の開発、生産、取得、保有、移譲及び使用を行わないことを約束する」と定められており、日本では終戦後生産されていません。このため、発見された不審瓶は戦前か戦時中に旧日本軍で生産され、終戦時に遺棄されたものであると考えられました。
ニュースなどで盛んに報じられている茨城県神栖町のヒ素による井戸水汚染も成分分析の結果から、旧日本軍の化学兵器が原因であると言われています。

このように最近、旧日本軍の化学兵器による被害が続発しております。環境省では平成15年9月に、昭和48年に行われた「旧軍毒ガス弾等の全国調査」の追跡調査を行いました。その結果、旧日本軍毒ガス弾等の生産・保有状況については全国で34箇所、廃棄・遺棄状況については44箇所の地域が報告され、発見・被災・掃海等の処理状況については823件の報告がありました(環境省ホームページ「旧軍毒ガス弾等の対策について」)。これだけ多くの地点に旧日本軍の化学兵器が存在している可能性があるのです。

弊社では神奈川県寒川町、平塚市、茨城県神栖町と、旧日本軍の化学兵器が存在する可能性が高い千葉県習志野市において調査を行っています。
また、平成7年から中華人民共和国においても化学兵器の調査に加わり、数多くの化学兵器の位置や数量に関する情報を提供しています。

発見された化学兵器

化学兵器とは

  • 化学兵器は化学兵器禁止条約 (※1)により以下のように定められています。

    第2条 定義及び基準

    「化学兵器」とは、次の物を合わせたもの又は次の物を個別にいう。

    (a)毒性化学物質及びその前駆物質。ただし、この条約によって禁止されていない目的のためのものであり、かつ、種類及び量が当該目的に適合する場合は除く。

    (b)弾薬類及び装置であって、その使用の結果放出されることとなる(a)に規定する毒性化学物質の毒性によって、死その他の害を引き起こすように特別に設計されたもの

    (c)(b)に規定する弾薬類及び装置の使用に直接関連して使用するように特別に設計された装置

化学剤の特徴

  • 化学兵器とは、化学物質の有する毒性や刺激性などを利用して生物に害を与える兵器をいいます。利用される化学物質を化学剤といいます。その多くはガス状か揮発しやすい液体です。地下鉄サリン事件で有名なサリンも神経を冒す化学剤です。化学兵器のほとんどが砲弾で、その内容物として化学剤が充填されています。 旧日本軍で生産・保有された化学剤の特徴を以下にまとめました。

  • 旧日本軍で生産された化学剤の特性

  • 種類 物質名 におい 性状 急性症状 旧日本陸軍における名称
    びらん剤 硫黄マスタード(イペリットともいう)(HD) からし臭 液体から気化する。 皮膚に付着すると1~2時間後に赤い斑点を生じ、痛みを伴うびらんや水疱が出現する。また、眼の痛みや充血をもたらす。吸入した時は、のどには刺激症状(刺されるような痛み)が見られ、大量の暴露時には、呼吸困難を引き起こし、死に至る。 きい剤
    からし臭 ゼラニウム臭
    くしゃみ剤(嘔吐剤) ジフェニルシアノアルシン(DC) 無臭だが、時にニンニク臭やアーモンド臭 固体だが、熱を加えることで微粒子として拡散する。 鼻やのどの痛みとともに、くしゃみ、セキ、吐き気等が生じる。高濃度では、嘔吐、めまいや腹痛を伴い、呼吸困難等で死亡する。皮膚や眼に対する刺激症状は少ない。 あか剤
    ジフェニルクロロアルシン(DA)
    催涙剤 クロロアセトフェノン(CN) りんご花臭 固体だが、熱を加えることで微粒子として拡散する。 眼や皮膚に刺されるような痛みがあり、激しい流涙とともに一時的な失明状態となる。高濃度では、のどの灼熱感と呼吸困難がみられる。 みどり剤
    窒息剤 ホスゲン(CG) 干し草臭 液体だが、空気にふれるとただちに気化する。 眼に流涙や刺すような痛みを感じ、セキと胸部圧迫感がみられる。高濃度では、のどの痙攣や呼吸困難を引き起こし、死に至る。 あお剤
    血液剤 青酸(シアン化水素)(AC) アーモンド臭 液体だが、空気にふれるとただちに気化する。 低濃度では頭痛、動悸、めまい、嘔吐や吐き気が一時的にみられるが、症状は速やかに回復する。高濃度では意識を失い、呼吸数の減少や呼吸が浅くなり、痙攣を伴い無呼吸となり死に至る。 ちゃ剤
    発煙剤 トリクロロアルシン 刺激臭 油状の液体で、空気中で発煙を生じる。 目、皮膚、気道に対して腐食性がある。直接吸引では肺水腫を起こす場合がある。 しろ剤

    「A事案区域内における土地改変時の対応について」環境省毒ガス情報センター・平成24年8月等より作成

化学兵器はどこにあるのか

  • 旧日本軍の化学兵器の多くは中華人民共和国内に存在します。戦争時、日本国内で生産された化学剤および化学兵器が中国国内に持ち込まれ、敗戦時に中国国内に大量に遺棄されました。その数は推定70万発と言われております(中国側は200万発と主張)(※2)。

    弊社では平成7年から中国国内における化学兵器の調査を何度か行ってきました。調査によってこれまで数万発の化学兵器の位置と数量に関する情報を提供するとともに、掘削・回収作業の安全化に貢献してきました。

    日本国内に存在した化学兵器は、終戦時から米軍進駐前に埋設、海中投棄、焼却処分されました。米軍進駐後は、米軍監視の元で海洋投棄または焼却破壊されました。平成15年11月に環境省で実施した昭和48年の「旧軍毒ガス弾等の全国調査」フォローアップ報告書によると、旧日本軍毒ガス弾等の生産・保有状況については全国で34箇所、廃棄・遺棄状況については44箇所の地域が報告され、発見・被災・掃海等の処理状況については823件の報告がありました(※3)。

    寒川、平塚で検出された化学剤は旧日本軍で生産され、終戦時遺棄された可能性が高いものです。

    このように戦後50年以上経った現在でも、旧日本軍による負の遺産が我々の安全を脅かしているのです。

※1 化学兵器の使用だけではなく、開発・生産・貯蔵なども禁止し、保有国には廃棄を義務づけた条約。1992年11月国連採択、1997年4月発行。日本は1995年9月に批准した。詳細は外務省ホームページ参照。
※2 内閣府化学兵器処理担当室ホームページ参照。
※3 環境省ホームページ参照。

化学兵器調査は以下の流れで行います。

周辺環境調査

化学兵器についての情報を収集します。

  • 聞き込み調査

    当時を知る住民に聞き込み調査を行い、過去の状況、証言、土地利用履歴などを整理します。

  • 資料調査

    当時の航空写真、記録などから土地利用履歴や毒ガスに関する情報などを整理します。

  • 井戸調査

    周辺の井戸の使用状況、深度、地下水位などをまとめ、井戸台帳を作成します。また、井戸水をサンプリング・分析し、成分を調べます。

    • 井戸調査の様子

    • 地下水サンプリングの様子

  • 周辺大気調査

    現場周辺大気のサンプリング・検知・分析を行い、毒ガス成分が漏出していないかどうか確認します。

地表面調査

地表面から化学兵器が埋まっている場所を調べます。

  • レーダ探査

    電磁波を地中に向けて照射し、その反射波を解析することで、地中にある異物を探査します。

    • レーダ探査の様子

  • 水平磁気探査

    磁気探査器により地中の磁性物を探査します。

    • 水平磁気探査の様子1

    • 水平磁気探査の様子2

  • 毒ガス検知

    毒ガスが漏出していないか、化学剤検知器などで地表面を検知します。

    • 毒ガス検知の様子1

    • 毒ガス検知の様子2

    • 毒ガス検知の様子3

ボーリング調査

ボーリングマシンでボーリング孔を掘削している様子

ボーリング孔を掘削し、その孔を利用して様々な調査を行います。

  • 鉛直磁気探査

    掘削孔の周辺に危険物がないか、ボーリングマシンで数メートル掘削するごとに確認探査を行います。

  • 土壌・地下水調査

    土壌・地下水のサンプリング・分析を行い、その濃度分布や水質的特性から危険物の範囲を絞り込みます。また、地下水の流向・流速測定、トレーサー試験なども行います。

掘削時毒ガス調査

毒ガスが漏出していないか、重機で数十センチ掘削するごとに化学剤検知器などで確認検知を行います。

環境大気調査

携帯型ガスクロマトグラフ質量分析計で未知ガスを分析している様子

現場周辺大気のサンプリング・検知・分析を行い、毒ガス成分が漏出していないかどうか確認します。